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【movie】ミスト(英:The Mist)(2007・アメリカ)

★★★★★★★★★★(10点/★は10点満点)

こうやって映画や本に点数をつけているのは、何かと忘れっぽい僕が何かを思い出す際に、
「この作品の評価って自分のなかでどうなってたっけ?」を
覚えておくために存在するのであって、それは僕と感性が似た誰かにとっては役立つかもしれないけど、
別にこれで何かライターとしての権威を得ようとしたりとか、みんな私のレビューを参考にしてよねと強制するものでもありません。

ではなぜ、誰にも見られない日記帳でも買って自分だけに見られるようにしておかないかというと、
ひょっとするとこんな僕の感想でも誰かの役に立つかもしれないと考えるからです。

さて、本題「The Mist」です。アメリカの巨人スティーブン・キング原作。
ショーシャンクの空に」の監督・脚本(1994)、「プライベート・ライアン [DVD]」の脚本(1998)などの、
もう疑いようのない名作の脚本・監督で知られるフランク・ダラボン(Frank Darabont)の、現時点での最新作。(※余談だけどどちらの名作もいまや1,000円未満で手に入るんだね!)

ホラー作品(スティーブン・キング原作だけあってSFの要素もたぶんにあり)に僕がここまで感動することは
あまりないのですが、そのホラー不感症な僕がこの作品について気になった点をいくつかあげようと思います。

ダラボンは怒っている

誰もが知ってる「ショーシャンク」は、ストーリーはおぼろげながらしか
覚えていない人でも「刑務所内の囚人が主人公であること」「あたたかいヒューマンドラマであること」などは覚えていると思う。
忘れっぽい僕ももういくつかのシーンをのぞいて忘却の彼方だが、この作品は罪を憎んで人を憎まず。たいへん人間愛に満ちている作品であることは覚えている。

一方で「ミスト」は、同じスティーブン・キング原作の作品という共通項を持ち、
おそらくそれがゆえに「ショーシャンク」的な心温まる物語を期待した人もいるかもしれないが、
監督の意図はむしろ真逆とも受け取れる。

ダラボンは怒っている。

何に怒っているか。
スーパーに閉じ込められることになった、アメリカのよくある片田舎の人々に、だ。
この作品はSFホラーを装っているが、多くのSFがそうであるように、これは現代への皮肉である。
人々は巨大化した殺人昆虫におびえ、それはよくあるアメリカの恐怖映画のフォーマットに沿ったものだが、
この作品の見所は、スーパーに閉じ込められた“本来協力して困難に挑まなければいけない人々の仲間割れ”も見事に描いている点だ。

その仲間割れの中心にいるのは、マーシャ・ゲイ・ハーデン(Marcia Gay Harden)演じる、狂信的な宗教者。
彼女はこのような現状に陥っているのは、我々人類が神の怒りを買ったからであると人々を扇動し、ついには生け贄が必要だと言い出す。

最初は彼女の発言を無視していた人々は、やがていくつかの事件を経て彼女の“信者”と化していく。
このあたり、2時間でおさめなければいけないので、映画的なレトリックで短絡化している感はある。
いくらアメリカの片田舎だからってそんなに狂信的な人々が多くなるかね、というのは物語的なリアリティの維持にじゃっかん水を差すかもしれないが
この物語の主題はそこではない。

このスーパーはメタファーだ。
スーパーに閉じ込められた多くの人は教養がなく、地元的な結束で固まっている人々であるが、何人かのエリートも含まれている。
一握りのエリートに無知の国民ってこれ、まんまアメリカじゃないか。
軍の関係者もいる。警察もいる。マッチョな人がいる。アメリカ国民の縮図のようなスーパー。

ダラボンは、スーパーに居合わせた人々の生死を決めることができる時点で、
圧倒的な強者=未知の生物の役割を担っているといっても過言ではないだろう。
彼の無言の怒りは、アメリカの片田舎のスーパーの人々(典型的なアメリカ国民のメタファー)に向かっている。

え、その強敵に対して、ドッグフードを積み上げた気休めのブロックで立ち向かうんすか?

さて、ストーリーの背景はこれでできあがったが、娯楽作品として成立させるためには、
物語的な推進力を持ったヒーローの存在が不可欠となる。

主人公のトーマス・ジェーン(Thomas Jane)演じるデヴィッド・ドレイトンは、そういったヒーローである。
(ちなみにトーマス・ジェーンは『ディープ・ブルー』にも主人公で登場し、ここでも典型的なヒーロー役として登場している。彼は記号的なヒーローだ)

彼は思慮深く、間違った行動をする人々に対し正しい判断を仰ぐように忠告する。彼の話を聞かなかったものは犠牲者となる。
妻や子どもを愛し、自分の息子に危機が及ばないように最善を尽くす。
常に状況を見て勇敢な行動をし、やがて“スーパー内のまともな人々”を束ねる役割を担うようになる。

しかし、古典的なヒーローの存在に見落とされがちだが、よくよく考えれば彼は彼で滑稽にも見える。
敵は明らかに強大で、人間の手に負えない怪物だ。それに立ち向かうドレイトンはあまりにも弱い。
いくつかの困難は彼の機転によって乗り越えられるのだが、よくよく考えてみると100%完璧な行動をしているとは言いがたい。
隣の薬屋に抗生物質を取りに行こうとした際には犠牲者を出している。

巨大生物の襲撃に対抗するため、スーパーの売り物のドッグフードをガラス張りのスーパーの窓の手前に
積み重ねるのだが、ちょっと待って欲しい。そんな実態さえもつかめない強大な敵に対し、そんなドッグフードごときでしのげるとおもってんすか?

ラストの衝撃のシーンはネタバレになるから置いておくとして、最後に車中に残される5人が(おじいさん、おばあさん、お父さん、お母さん、子ども)という
家族を思わせるメンバーになったのも憶測を呼んで面白い。僕の解釈では、これは“アメリカの典型的な教育水準の高い家族”のメタファーだと思っています。
ということは、最後でアメリカのお父さんのメタファーである主人公がとったある行動は・・・・・。

ま、ここで書いたことを全部見なかったとしても、単純に恐怖映画として楽しめる内容になっていると思います。
個人的には「ショーシャンク」を越える名作だと位置づけています。

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【DATA】
[監督・脚本・製作] フランク・ダラボン(Frank Darabont) / 『ショーシャンクの空に』、『グリーンマイル』
[原作]スティーヴン・キング(Stephen Edwin King)/説明不要。『シャイニング』、『スタンド・バイ・ミー』。
[音楽] マーク・アイシャム(Mark Isham) /トランペット奏者、シンセサイザー奏者。映画音楽。『告発のとき』など。

[出演] トーマス・ジェーン(Thomas Jane) /『ディープ・ブルー』
    トビー・ジョーンズ(Toby Jones) /『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(声)、『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』