Tagged: アメリカ

【movie】アメリカン・ビューティ(2000/アメリカ)

資本大国に上り詰めたアメリカには、こんな側面もあります

10年ほど前にDVDレンタルで2回ほど見て、それからマイ・フェイバリットの一つにしている映画。
だから今回が通算3回目。何度見ても良い。10年に1回、いや、5年に1回は見返したい。

タイトル、そしてシーンに音楽。どこを取っても美しい映画。
ストーリーはとても憂鬱なのに、この官能的とも言える演出の美しさはなんだろう。

アメリカの、郊外の中産階級の、閉塞した家族空間が舞台だ。
これはアメリカ版『家族ゲーム』だが、
80年代の日本の家族ゲームよりも、異国アメリカで作られたこの映画の方が現代的で
身に迫るモノがある。つまるところ、アメリカン・ビューティで描かれている
中産階級の閉塞感は先進国の共通の病なのだろう。そしてこの映画がなぜ現代的なのかは後ほど。

初見では気づかなかったが、後に『007 スカイフォール』を撮る監督のサム・メンデスは
主人公のレスターを情けない男のはずなのに、とてもダンディでクールな男のように撮影している。女性もセクシーに描く。
要するにこの人は役者の持つセクシャリティを引き出すのがうまいのだろう。

家族は崩壊していなかった。

はじめてこの映画を見たのは20歳過ぎのころ。
そのころはこの映画にはどこにも善人がいないところが気になった。
そして私はこんな家庭に生まれたらイヤだという息子・娘目線だった。
30を過ぎてもう一度見返すと、みんな良い部分がある。
本当の悪人は一人しか居ない(いや、その一人も本当の悪人かどうか分からない)

それに、10年の間にまったく話のスジを忘れていたのだが、
主人公のレスター(ケヴィン・スペイシー)は最後の最後で、
奥さんと一人娘を愛する生活のすばらしさに気づく。改心する。

皮肉にも、娘の友達への恋心が成就することで、自分は誰かに
ちゃんと愛されたかったのだということが伝わるラストになっている。

奥さんのキャロライン(アネット・ベニング)も、レスターが死んだあとに、
彼の衣類を抱きながら泣き崩れている。キャロラインは彼を愛していたのだ。
夫婦仲を引き裂く上昇志向さや潔癖さもよく見ると、
彼女の出生に原因があるのかな、とにおわせる描写が一シーンだけあった。

ついでに言えば、娘のジェーン(ソーラ・バーチ)は
思春期を乗り越えたら父と母を愛するよき娘になるだろう。
おそらくあの恋人とも別れるはずだ。

この映画の美しさは映像の美しさに起因するが、
本当には家族の愛はなくなっていなかった(だがしかし、失うことになってしまう)という部分も、
この映画を美しいものにしている重要な要素だ。

この映画が描く、家族崩壊に次ぐ大きな視点

この映画が良くできているのは、
決定的ないくつかの事件が起こる前から
どうも居心地の悪さや不穏な空気をまとっているところだろう。
まさかサムメンデスは予言者ではないだろうが、それは翌年、
世界を震撼させるニューヨークの多発テロを予言しているかのようだ。

なぜ居心地が悪いのか考えたところ、
『核家族の崩壊』という物語の核となるテーマに加えて、
もう一つ重要なテーマが描かれているところだろう。

それは、『監視』の視点である。
重要な事件が窓越しに監視されているところ。そして決定的なのは
隣人であり、娘の恋人のリッキー(ウェス・ベントリー)が常に抱えている『ビデオカメラ』の存在である。
これがあることによって、『監視』がこの物語の重要なテーマであることが確信できる。

つまり、相互に監視される社会の生きづらさという視点が、家族崩壊という大テーマの影でたくみに描かれているのだ。
だからこそこの映画は、“現代的な”家族崩壊というテーマを描くことに成功しているのだろう。

サム・メンデスは寡作だ。こだわりやだからかもしれないが、もっと見たい。

アメリカン・ビューティ
2000/アメリカ

監督:サム・メンデス(Sam Mendes)『レボリューショナリー・ロード』『007 スカイフォール』
主演:ケヴィン・スペイシー(Kevin Spacey)『ユージュアル・サスペクツ』『セブン』
出演:アネット・ベニング(Annette Bening)『キッズ・オールライト』/ソーラ・バーチ(Thora Birch)/ミーナ・スヴァーリ(Mena Suvari)
脚本:アラン・ボール(Alan Ball)/音楽:トーマス・ニューマン(Thomas Newman)『アジャストメント』『007 スカイフォール』『ショーシャンクの空に』

【movie】ミスト(英:The Mist)(2007・アメリカ)

★★★★★★★★★★(10点/★は10点満点)

こうやって映画や本に点数をつけているのは、何かと忘れっぽい僕が何かを思い出す際に、
「この作品の評価って自分のなかでどうなってたっけ?」を
覚えておくために存在するのであって、それは僕と感性が似た誰かにとっては役立つかもしれないけど、
別にこれで何かライターとしての権威を得ようとしたりとか、みんな私のレビューを参考にしてよねと強制するものでもありません。

ではなぜ、誰にも見られない日記帳でも買って自分だけに見られるようにしておかないかというと、
ひょっとするとこんな僕の感想でも誰かの役に立つかもしれないと考えるからです。

さて、本題「The Mist」です。アメリカの巨人スティーブン・キング原作。
ショーシャンクの空に」の監督・脚本(1994)、「プライベート・ライアン [DVD]」の脚本(1998)などの、
もう疑いようのない名作の脚本・監督で知られるフランク・ダラボン(Frank Darabont)の、現時点での最新作。(※余談だけどどちらの名作もいまや1,000円未満で手に入るんだね!)

ホラー作品(スティーブン・キング原作だけあってSFの要素もたぶんにあり)に僕がここまで感動することは
あまりないのですが、そのホラー不感症な僕がこの作品について気になった点をいくつかあげようと思います。

ダラボンは怒っている

誰もが知ってる「ショーシャンク」は、ストーリーはおぼろげながらしか
覚えていない人でも「刑務所内の囚人が主人公であること」「あたたかいヒューマンドラマであること」などは覚えていると思う。
忘れっぽい僕ももういくつかのシーンをのぞいて忘却の彼方だが、この作品は罪を憎んで人を憎まず。たいへん人間愛に満ちている作品であることは覚えている。

一方で「ミスト」は、同じスティーブン・キング原作の作品という共通項を持ち、
おそらくそれがゆえに「ショーシャンク」的な心温まる物語を期待した人もいるかもしれないが、
監督の意図はむしろ真逆とも受け取れる。

ダラボンは怒っている。

何に怒っているか。
スーパーに閉じ込められることになった、アメリカのよくある片田舎の人々に、だ。
この作品はSFホラーを装っているが、多くのSFがそうであるように、これは現代への皮肉である。
人々は巨大化した殺人昆虫におびえ、それはよくあるアメリカの恐怖映画のフォーマットに沿ったものだが、
この作品の見所は、スーパーに閉じ込められた“本来協力して困難に挑まなければいけない人々の仲間割れ”も見事に描いている点だ。

その仲間割れの中心にいるのは、マーシャ・ゲイ・ハーデン(Marcia Gay Harden)演じる、狂信的な宗教者。
彼女はこのような現状に陥っているのは、我々人類が神の怒りを買ったからであると人々を扇動し、ついには生け贄が必要だと言い出す。

最初は彼女の発言を無視していた人々は、やがていくつかの事件を経て彼女の“信者”と化していく。
このあたり、2時間でおさめなければいけないので、映画的なレトリックで短絡化している感はある。
いくらアメリカの片田舎だからってそんなに狂信的な人々が多くなるかね、というのは物語的なリアリティの維持にじゃっかん水を差すかもしれないが
この物語の主題はそこではない。

このスーパーはメタファーだ。
スーパーに閉じ込められた多くの人は教養がなく、地元的な結束で固まっている人々であるが、何人かのエリートも含まれている。
一握りのエリートに無知の国民ってこれ、まんまアメリカじゃないか。
軍の関係者もいる。警察もいる。マッチョな人がいる。アメリカ国民の縮図のようなスーパー。

ダラボンは、スーパーに居合わせた人々の生死を決めることができる時点で、
圧倒的な強者=未知の生物の役割を担っているといっても過言ではないだろう。
彼の無言の怒りは、アメリカの片田舎のスーパーの人々(典型的なアメリカ国民のメタファー)に向かっている。

え、その強敵に対して、ドッグフードを積み上げた気休めのブロックで立ち向かうんすか?

さて、ストーリーの背景はこれでできあがったが、娯楽作品として成立させるためには、
物語的な推進力を持ったヒーローの存在が不可欠となる。

主人公のトーマス・ジェーン(Thomas Jane)演じるデヴィッド・ドレイトンは、そういったヒーローである。
(ちなみにトーマス・ジェーンは『ディープ・ブルー』にも主人公で登場し、ここでも典型的なヒーロー役として登場している。彼は記号的なヒーローだ)

彼は思慮深く、間違った行動をする人々に対し正しい判断を仰ぐように忠告する。彼の話を聞かなかったものは犠牲者となる。
妻や子どもを愛し、自分の息子に危機が及ばないように最善を尽くす。
常に状況を見て勇敢な行動をし、やがて“スーパー内のまともな人々”を束ねる役割を担うようになる。

しかし、古典的なヒーローの存在に見落とされがちだが、よくよく考えれば彼は彼で滑稽にも見える。
敵は明らかに強大で、人間の手に負えない怪物だ。それに立ち向かうドレイトンはあまりにも弱い。
いくつかの困難は彼の機転によって乗り越えられるのだが、よくよく考えてみると100%完璧な行動をしているとは言いがたい。
隣の薬屋に抗生物質を取りに行こうとした際には犠牲者を出している。

巨大生物の襲撃に対抗するため、スーパーの売り物のドッグフードをガラス張りのスーパーの窓の手前に
積み重ねるのだが、ちょっと待って欲しい。そんな実態さえもつかめない強大な敵に対し、そんなドッグフードごときでしのげるとおもってんすか?

ラストの衝撃のシーンはネタバレになるから置いておくとして、最後に車中に残される5人が(おじいさん、おばあさん、お父さん、お母さん、子ども)という
家族を思わせるメンバーになったのも憶測を呼んで面白い。僕の解釈では、これは“アメリカの典型的な教育水準の高い家族”のメタファーだと思っています。
ということは、最後でアメリカのお父さんのメタファーである主人公がとったある行動は・・・・・。

ま、ここで書いたことを全部見なかったとしても、単純に恐怖映画として楽しめる内容になっていると思います。
個人的には「ショーシャンク」を越える名作だと位置づけています。

==============
【DATA】
[監督・脚本・製作] フランク・ダラボン(Frank Darabont) / 『ショーシャンクの空に』、『グリーンマイル』
[原作]スティーヴン・キング(Stephen Edwin King)/説明不要。『シャイニング』、『スタンド・バイ・ミー』。
[音楽] マーク・アイシャム(Mark Isham) /トランペット奏者、シンセサイザー奏者。映画音楽。『告発のとき』など。

[出演] トーマス・ジェーン(Thomas Jane) /『ディープ・ブルー』
    トビー・ジョーンズ(Toby Jones) /『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(声)、『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』